文献検討から
移行期医療に関する文献検討において、主に【医療者の役割】【医療者の意識】【移行を進める際の難しさ】【患者・家族の思い】が示されました。【医療者の役割】では、患者個人の理解や希望を確認・尊重しながら移行へのイメージ化を助けることが必要であり、看護師等によるコーディネーターとしての役割や社会資源の紹介、相談役などが挙げられました。
【医療者の意識】では、小児科医師と成人科医師との認識に差が見られました。移行を進めたい小児科医師であっても、責任をもって最後まで診たいとの気持ちや、移行先がないことから積極的な紹介が出来ずにいる状況でした。
【移行を進める際の難しさ】では、重症例を診ることも多く、移行後経過が把握しにくいことや小児特有の疾病に不慣れであること、薬や来院のアドヒアランス、小児特有の法律・規制への対応の不慣れさおよび合併症併発や入院施設がないといった現状が示されました。
また、【患者・家族の思い】では、移行することへの不安や情報不足、親主体であることによる患児の関心の低下が問題視されていました。
看護師への面接調査から
移行に対する認識・タイミング・移行を難しくしている要因
看護師は、移行のタイミングを18~20歳といった患者が自分の意思をはっきり伝えられる時期が適切であると考えていました。また、移行を妨げる要因や課題として、患者や保護者は、小児科医師と発症時から継続した関係を築いており、成人科へ移行することで、この関係が崩れることに保護者や患者が不安を抱き、このことが移行を難しくしている一つの要因であると考えていました。しかし、看護師の中には、小児期から看ている患者に対し、思春期・青年期になっても小児科を受診していることに違和感を持たなかったり、当たり前と感じたりしている者もおり、小児慢性疾患患児の円滑な成人期医療への移行に対する看護師の意識を高めていくことも重要であるといえます。
また、看護師は、移行時期として〔ある程度の年齢になれば移行は必要である〕と、中学校の卒業を目安に成人科への移行を考えるとともに、〔専門的な治療や看護を受けるためにも成人科への移行が必要〕と、合併症等の発症にも対応できるよう、専門の診療科で治療を受ける必要性を感じていました。さらに、看護師は、〔患者や家族と医療者の間の信頼関係が安心につながっている〕と、継続した関係を持つ小児科医師や看護師との信頼関係が、患者・家族の安心感につながっていると認識していました。その一方で、〔患者や家族と医療者の間の信頼関係が移行を難しくしている〕とも認識しており、患者・家族と小児医療者間の強固な関係性が円滑な移行を妨げる一つの要因であると考えていました。あわせて、〔移行に対する患者や家族の意思を大切にする〕ことが必要であると考えており、実際の移行については、〔移行するか否かは小児科医師の考えによる〕と、担当医師により移行の状況が異なることがわかりました。そして、〔移行先との連携が必要〕と、円滑な移行や患者・家族の不安を軽減するためにも小児看護師と移行先の診療科の看護師が密に連携にとっていく必要があると考えていました。移行においては、〔同一施設内での移行が理想〕と、移行後も密な連携がとりやすいよう同一施設内での移行が最適であると考えるとともに、〔移行に関するシステムや決まりがあるとよい〕と、連携やサポート体制を含めた明確な移行システムの構築が必要であると考えていた。しかしながら、「医師も看護師も移行についてあまり意識していない」とも語っており、看護師も医師も移行に対する認識が低い現状があるともいえます。
特に、思春期の患児を担当する外来看護への面接調査では、移行期医療や移行期支援について、患児や家族と接する機会が少なく、成人期への移行を話題することが少ない現状や看護師自身も移行期支援に対する認識が低い現状にありました。小児病棟に勤務する看護師では、成人期にある小児期発症の慢性疾患をもつ患児が、小児病棟に入院していることに「20歳を超えた患児が小児病棟に入院していることに違和感をもつこともあるが、あまり意識はしていない」との認識もあり、積極的に移行を進めている現状ではないことが明らかとなりました。さらに、「移行については、医師の考えによるところが大きく、看護師側から進めていくことは難しい」との意見も聞かれました。
子どもと家族への面接調査から
保護者や患児も慣れ親しんだ小児科医に診察を受けることに安心感を抱いていました。また、保護者は、成人科へ移行する際、どの程度小児科との情報共有あるのか、今まで継続してきた治療内容や治療方針がどの程度理解され、継続されるのかといったことが不明であることにも不安を抱き、可能な限り小児科での受診を希望していました。そして、円滑な移行期医療のための看護師の役割や実際の看護師支援について、看護師は移行先のスタッフに患者や家族について情報提供をすることはもとより、患者や家族が移行前と移行後で医療や看護に差異を感じないよう、患者や家族を交えて情報共有ができる環境が整えられることを希望していました。
看護師への質問紙調査から
看護師の移行期患者や家族の移行期支援を実施する際に考慮することについての認識を明らかにするために、慢性疾患をもち移行期にある患者に関わる部署に勤務する看護師を対象に、質問調査を実施しました。調査の結果、53名から回答が得られ、移行期患者の移行期支援に携わった経験について、今回の対象者では「携わったことがない」31名(72.1%)と最も多く、移行期支援の経験が少ない現状が浮き彫りとなりました。また、移行期患者や家族の移行期支援を実施する際に考慮することに関する必要性の認識(平均値5.0-1.0)が高かった項目は、「移行期患者に対する移行後の支援体制(4.52)」、「移行期患者の家族に対する移行後の支援体制(4.48)」、「移行に対する家族の意思(4.45)」でした。
一方、認識が低かった項目は、「家族の経済状況(3.69)」、「移行期患児が健康増進や維持に必要な情報を収集し、それを理解し、利用するための能力(3.88)」、「疾患に関連した自己の性に関する問題についての移行期患児の理解度(3.88)」でした。これらの他に、看護師が考慮する必要があると認識していたこととして「移行期患者や家族と移行先の成人科医師との関係性」「移行期における小児科と成人科のひきつぎ状況」等が挙げられました。